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東京家庭裁判所 平成7年(家)15473号 審判 1996年3月28日

申立人 川井知美

相手方 川井春太

主文

相手方は、申立人に対し、未成年者両名を引き渡せ。

理由

第一申立ての趣旨

主文同旨

第二申立ての実情

1  申立人は、昭和38年2月21日に、長野県長野市で、父○○(昭和11年1月14日生)、母○△(昭和11年6月6日生)の長女として出生、昭和53年3月に長野県立○○高等学校卒業後、○○病院付属高等看護学校に入学し、正看護婦の資格を取得、昭和59年4月から平成2年4月までは、○○病院、○○○病院等で看護婦として勤務したが、平成2年5月に相手方と婚姻したことで、以後は専業主婦となり、相手方の父が経営する会社の電話番、帳簿付けなどの手伝いをしていた。

2  相手方は、昭和43年7月3日に、東京都葛飾区で、父川井春平(以下、「春平」という)、母菊代の長男として出生し、高等学校卒業後は、春平が経営する「川井解体」で、春平と共に解体業の仕事に従事している。なお、「川井解体」は平成2年9月11日に、有限会社○○工業として、有限会社になった。

3  申立人と相手方は、平成2年2月に東京都足立区の北千住の居酒屋で知り合い、交際をして、平成2年5月14日に婚姻届出をし、相手方肩書住所のアパート(「○○ハイツ」)に居住し、平成2年11月18日に未成年者長男春彦、平成6年2月5日に未成年者二男知彦が出生した。申立人と相手方が別居するに至るまでは、長男春彦は、幼稚園に通っていた。

4  相手方の両親は、現在別居中であり、春平は、埼玉県草加市○○町の○○マンションに居住し、本件申立時、タイ人の女性(27歳位「メグミ」と呼ばれている)と同棲していた。相手方の母菊代は、足立区○○のマンションに、相手方の妹由香と居住している。

5  相手方は、新婚時代から、気に入らないことがあれば、申立人に対し、殴る蹴る、髪をつかむ、物を投げる等の暴力を振るい、その数は30回以上に及んでいる。相手方は、子供の前でも平気で暴力を振るい、申立人が「子供の前では止めてほしい」と土下座して頼んでも、暴力は続けられた。

6  相手方や春平には非常識な行為が多く、例えば、会社名義のトラックが駐車違反で3~4回程度、黄色の輪をはめられたことがあったが、その都度、相手方らは、その輪を切ってはずしてしまい、申立人がその行為を注意しても「構わないだろう」などと述べて、警察からの問い合わせの電話には、申立人に対し、「職人が乗っていたから誰だか分からない」旨の返答をするよう強制した。

また、春平は、飲酒運転で衝突事故を起こしても、事故の相手からの問い合わせの電話に対して、申立人に対して「そんな人はいません」と応えるよう強要した。

7  申立人は相手方の暴力に対しては耐え忍んでいたが、平成7年8月から相手方が「やくざ風の者」の世話で、営業許可を取ることなく、焼鳥屋の露天商を開始したことには強く反対した。そして、平成7年9月21日に、申立人がその意思を相手方に告げたところ、相手方は申立人の顔面を殴打し、さらに足蹴りにする等の暴力を加えた。

8  以上の経過で、申立人は相手方との生活に限界を感じ、未成年者両名を連れて、長野市にある申立人の実家に戻った。

9  平成7年10月13日、相手方は申立人の実家を訪問し、申立人に対し、「今後はいつ会えるか分からないので、おもちゃを買ってあげたい」などと言って、未成年者両名を外に連れ出し、そのまま戻らなかった。

申立人が、急遽、上記○○ハイツに赴いたところ、丁度、相手方、春平、メグミの3人が、自動車2台に荷物を詰め込んでいる最中であった。自動車に乗っていた長男春彦が「ママー」と叫ぶのを聞き、申立人が自動車に近寄ると、相手方や春平は、「てめえは来るんじゃない。あきらめろ」等怒鳴り、車中で泣きじゃくる未成年者らを見た申立人が自動車のボンネットに乗って、フロントガラスをたたいて、「こんなことはしないで下さい。お頑いします」と哀願しても、相手方は申立人をひきずりおろし、自動車を出発させた。

10  その後、未成年者両名は、草加市にある春平の自宅に、相手方、春平、メグミと共に居住している。

以上の次第であるので、民法766条1項、家事審判法9条1項乙類4号を類推適用して、未成年者両名の引き渡しを求める。

第三当裁判所の判断

1  本件記録、本件仮処分申立事件記録、同間接強制申立事件記録によれば、上記申立ての実情記載の事実の外、次の事実が認められる。

(1)  未成年者両名の生後、相手方が未成年者両名を連れ去るまでの間、その育児は、一貫して申立人が担当しており、日常において、相手方が関わることはほとんどなかった。申立人は育児を良好にこなし、未成年者両名は平穏に成長してきていた。

(2)  相手方及び春平は、会社の経営がうまくゆかないので、飲食業の免許をとらないで、焼き鳥屋の露天商を開始し、そのうえ、「やくざ風の者」の指導をうけながら、営業を続けていた。申立人はこれに強く反対しており、機会ある毎に相手方にそのことを話していたが、相手方がこれを受け入れることはなく、却って、申立人に暴力を振るうに及んでいた。平成7年9月21日から23日にかけてもこのようなもめごとがあり、申立人は、相手方との離婚を決意し、平成7年9月25日、未成年者両名を連れて、長野市にある申立人の実家に戻った。

相手方は、申立人が実家に戻った日の夜、申立人に電話を入れ、非常に興奮して「とことんやってやるからな」等の暴言をはいたが、その数日後には反省しているから戻って欲しい旨の電話をし、手紙も送付した。しかし、申立人を翻意させることはなかった。

平成7年10月13日、相手方は、申立人方を訪れて、「子供のことはお前に任せる、離婚のことはこれからの話し合いだ」と述べていたにも関わらず、その直後、申立ての実情9記載のように、未成年者両名を連れ去った。

(3)  申立人は、相手方に未成年者らを連れ去られた後、当庁に、離婚のための調停を申し立て(平成7年(家イ)第××××号)、併せて東京地方裁判所に人身保護請求訴訟を提起したが、その後、平成7年11月20日に本件及びその仮処分申請事件を当庁へ提起した。

申立人としては、相手方との価値観のずれを調整することに限界を感じ、また、別居後の相手方の行動についても不信を抱いており、相手方との夫婦関係を修復することは考えていない。

申立人は既に再就職をしており、今後は、実父母の援助を受けながら、未成年者両名の養育監護をして行きたいとの希望を持っており、未成年者両名を保育園に通園させるための手続きも進めている。

当庁調査官の調査結果によれば、申立人は、未成年者らを引き取った場合の養育環境を整えており、また、親族による養育面や経済面での援助も期特ができる。

(4)  相手方は、本件仮処分の審問において、露天商はやめた、今後は申立人が戻ってきて再び親子で暮らせることを強く希望する旨を繰り返し述べ、また、未成年者両名に対しては、強い愛情を持っているので、仮に今後申立人と離婚するようなことがあっても、両名を申立人に引き渡すことは考えられないことを強調した。また、相手方は、申立人に不貞のあることを強く疑っており(相手方は、不貞を疑う根拠として、長男が、相手方に対し、申立人が相手方以外の男性と親密にしていたと報告した旨の主張をする)申立人が未成年者両名を監護するべきでない旨の主張した。また、相手方は、夫婦の問題について当裁判所が関与することに拒否的であり、自らの信仰する○○教の指導者的立場の者を仲介者として話し合うことを強く希望した。

(5)  平成7年12月22日、当裁判所は、未成年者両名の年齢や従前の養育実績を重視し、また、双方の養育環境を考慮した上で、相手方に対し、申立人に未成年者両名を引き渡すことを命じる仮処分審判をした。

当時、相手方が当庁調査官による調査を受け入れないので、未成年者両名の状況を正確に把握することはできなかったが、相手方が申立人へ電話連絡してきた内容等、当庁で収集できた資料を総合すると、少なくとも、相手方は、未成年者両名と共に、埼玉県草加市にある春平宅において、春平及びその愛人である「メグミ」と共に生活していること、未成年者両名の面倒は、主に「メグミ」がみていること、相手方や春平は、未成年者両名に対し、申立人不在の理由を、「ママは、頭が狂って、いなくなってしまった」、「浮気をして出ていった」などと説明しているようであること、相手方は、二男に予防接種を受けさせたが(申立人が相手方に対し、ポリオの予防接種を受けさせるよう依頼していた)、それが、本来受けさせるべきポリオではなく他の種類のものであった可能性があること(相手方は「DDI」という名のものを接種させたがよくおぼえていないと説明する)当の事情が伺えた。

(6)  上記仮処分審判書は、同日相手方に執行官送達された。当日、申立人及び同代理人は、執行官に随伴して、相手方宅へ赴き、未成年者両名の引渡を求め、説得を試みたが、相手方は承知しなかった。

(7)  平成7年12月25日、申立人は当庁に対し、前記仮処分事件についての履行勧告の申立て及び間接強制の申立(平成7年(家ロ)第178号)を行った。

相手方は、当庁調査官による度重なる履行勧告にも応じていないが、その不履行の理由としては、上記(4)で述べたことを繰り返し、また、相手方と春平は、○○教の熱心な信者になったので、裁判所の命令に応じなくても、神が守ってくれると思っていることを強調している。

平成8年1月30日、当裁判所は、相手方に対し、<1>決定書送達の日から3日以内に未成年者両名を引き渡すこと、<2>引渡をしないときは、1日あたり3万円の金員を申立人に支払うことを命ずる間接強制決定をし、同決定書は、平成8年2月8日に、相手方宅に執行官送達された。しかるに、相手方は、例え間接強制により損害金を取られようとも、人身保護請求事件手続きにより身柄を拘束されようとも未成年者らの引渡はしないとの姿勢を崩さない。

(8)  前記仮処分決定後においての未成年者両名の状況については、相手方が依然、当庁調査官の調査に対して非協力的であり、不誠実な態度で終始するので(未成年者らの状況の調査を目的として、当庁調査官が相手方宅を訪問することにつき念入りに相手方と打ち合わせたにもかかわらず、約束を守らないことが複数回あった)、これを正確に把握することはできない。しかし、前記仮処分後、未成年者両名と面会のために相手方宅を2度訪れることのできた申立人の上申書や、その他当庁で収集できた資料によれば、<1>「メグミ」は既にタイへ帰国し、現在は、相手方とその春平のみで未成年者両名の面倒をみているが、未成年者両名には汚れた衣服を着用させ、粗末な食事を与えている等、衣食への配慮は不十分のようであること(相手方は、当裁判所に対しては、自らの実母が未成年者らの面倒をみている旨の説明をしたが、周辺の状況からして、そのような可能性はなく、相手方の説明は虚偽であったものと思料される)、<2>未成年者両名は、相手方や春平に連れられて○○教の集会所へ頻繁に出入りしているようであり、長男春彦は○○教のペンダントを首からぶら下げ、「浄霊するんだ」等言って宗教的なポーズをとるようになっていること、<3>相手方は、当庁調査官に対しては、長男春彦を幼稚園に通園させている旨の説明をしていたが、実際には通園させていないこと、<4>二男知彦は、泣く際に、自己の額を床や畳にガンガンと打ちつける等、申立人が監護していた頃には見られなかった反応を示すようになっていること、<5>長男春彦は、申立人が会いに行くと、申立人に対し、「僕を連れ戻しにきたの」旨の不安そうな問いを投げかけたり、また、相手方が長男を置いて外出しようとすると泣き叫ぶ等の反応を示し、非常に不安定な状況にあること等の事実を認めることができる。

(9)  申立人は、未成年者らの面前で、子の奪い合いで乱闘になることを避けるため、相手方に対し、ひたすら、裁判所の命令に応じるよう冷静な働きかけを試みてきたが、相手方はこれに応じず、以前からの主張を繰り返すのみである。

申立人は、未成年者らの現状を案じて、相手方宛てに、母子手帳や未成年者らの衣類を郵送する等の心配りを続けている。

なお、申立人には、相手方が主張するような不貞を疑うに足りる状況は存在しない。

(10)  相手方は、現在、春平と共に、日雇いで解体業の仕事に従事しており、月平均35万円程度の収入を得ている。

相手方は、お人好しの面を持っているようではあるが、過敏で些細なことに感情的になる。また、自己中心的であり、裁判所の決定について、まともに見据えることができない。法律的手続きの知識に乏しく、嫌なことは避け、嵐が過ぎるのをじっと待っているといった態度で終始する傾向がある。

2  以上の事実を総合して検討する。

本件夫婦の問題を解決するには、相当の時間を要するものと予想されるので、申立人と相手方が別居中の、未成年者両名の監護者を指定する必要がある。

今回相手方に連れ去られるまで、未成年者両名は、申立人の監護の下で平穏に成長してきており、従前の申立人の監護は良好に行われてきている(この点は、相手方も認めるところである。)そうすると、このような関係にあった実母と乳幼児が離れて生活することは、生物学的、発達心理学的にみても、未成年者らの今後の心身の発達に障害となる可能性があるといえよう。

相手方や春平が、現在、未成年者両名を、愛情を持って育てていることは想像に難くないが、その養育対応は刹那的であり、未成年者両名に精神的安定をもたらすには不十分であるといわざるをえない。未成年者両名の年齢からすれば、母親の細やかな愛情を最も必要とする時期である。この時期に、相手方や春平による監護が、申立人のそれに比して良好であると窺うに足りる資料は全く存在しないのである。

併せて、相手方のこれまでの裁判所に対する対応は、監護者としての適格性に疑問を抱かせるものである。

したがって、当裁判所は、未成年者両名の福祉のためには、申立人がその監護にあたることこそが相当と考える。

よって、申立人を監護者と指定し、相手方に対しては、申立人に未成年者両名を引き渡すことを命じることとし、民法766条1項、家事審判法9条1項乙類4号、同規則53条を類推適用して、主文のとおり審判する。

なお、未成年者両名の現状からすれば、申立人に対する引渡しを速やかに実現して、早期にその精神的安定を図ることが喫緊の課題となる。

当裁判所は、未成年者両名の年齢、これまでの相手方の対応等を考慮すれば、本件未成年者両名の引渡しを実現する方法は、直接強制によるしかないものと考えており、また、直接強制こそが、子の福祉に叶うものであると考えていることを付言しておく。

(家事審判官 遠藤真澄)

〔参考1〕(東京家 平7(家ロ)5081号、5082号 審判前の保全処分申立事件 平7.12.22審判)

主文

相手方は、申立人に対し、未成年者両名を仮に引き渡せ。

理由

1 申立ての趣旨

主文同旨

2 当裁判所の判断

(1) 本件記録、本案審判申立事件記録によれば、別紙申立の実情記載の事実及び、次の事実が認められる。

<1> 長男、次男の育児は、生まれてから一貫して申立人が担当しており、日常において、相手方がかかわることはほとんどなかった。

<2> 申立人は、相手方ないしは相手方の父川井春平(以下、「春平」という)が、飲食業の許可をとらないで、焼鳥屋の露天商を開始し、そのうえ、「テキ屋」の指導を受けながら、営業を続けることに強く反対しており、機会ある毎に相手方にそのことを話していたが、相手方がこれを受け入れることはなく、却って、申立人に暴力を振るうに及んでいた。平成7年9月21日から23日にかけてもこのようなもめごとがあり、申立人は、相手方との離婚を決意し、平成7年9月25日、長男、次男(本件未成年者両名)を連れて、長野市にある申立人の実家へ戻ったものである。

<3> 申立人は、相手方に未成年者らを連れ去られた後、当庁に離婚のための調停を申し立て(平成7年(家イ)第××××号)、併せて地裁に人身保護請求を提起したが、その後、平成7年11月20日に本件及びその本案事件を当庁へ提起した。

申立人としては、相手方との価値観のずれを調整することに限界を感じ、また、別居後の相手方の行動についても不信を抱いており、相手方と今後、夫婦関係を修復することは考えていない。

<4> 相手方は、当庁の審問において、申立人が戻ってきて再び親子で暮らせることを強く希望する旨を述べた。ただし、相手方は、申立人に不貞のあることを疑っており、(相手方は、不貞を疑う根拠として、長男が、相手方に対し、申立人が他の男性と親密にしていたと言っている旨主張する)、また、今後、家裁の関与において夫婦に関する話し合いの機会をもつことについても拒否的な言動をしている。また、未成年者両名について、強い愛情をもっており、仮に離婚に至っても、両名を、申立人に引き渡すことは考えられないようである。

<5> 未成年者両名の現状については、相手方が当庁調査官による調査を受け入れないので、これを明確にすることはできないが、相手方が申立人へ電話連絡してきた内容等、当庁で把握できた資料を総合すると、未成年者両名と相手方は、埼玉県草加市にある春平宅において、春平及びその愛人であるタイ人女性(27歳「メグミ」と呼ばれている)と共に生活しており、未成年者両名の主な面倒は、「メグミ」がみていること、未成年者両名の健康状態には、差し当たり問題はなさそうであるが、むづかることが多く、「メグミ」にも疲労がみえるようであること、相手方や春平は、未成年者両名に対し、申立人不在の理由を、「ママは頭が狂っていなくなってしまった」、「浮気をして出ていった」などと説明しているようであること、相手方は、次男に予防接種をさせたようであるが、それが、本来接種させるべきポリオではなく他の種類のものであった可能性があるが、相手方自身そのことをよく理解していないこと等の事実を認めることができる。

以上の事実を総合すると、本件夫婦の問題を解決するには、相当の時間を要するものと予想されるところであるが、この間、相手方が愛情を持って未成年者両名を養育するであろうことは想像に難くはない。しかし、未成年者両名は、今回相手方に連れ去られるまで、申立人の監護を受けて平穏に成長してきており、従前の申立人の監護が良好に行われていたことからすれば、このような関係にあった実母と乳幼児が離れて生活することは、生物学的、発達心理学的にみても、未成年者らの今後の心身の発達に障害となる可能性がある。また、申立人の下での監護に比べると、相手方の監護下での未成年者らの現状が好ましいとの評価はできない(なお、申立人が他の男性と不貞に及んでいると疑うに足りる資料は全く存在しない。)。そうすると、いかなる理由があるにせよ、平穏に継続していた母子関係を断ち切って未成年者両名を連れ去り、自らの監護下に置いた今回の相手方による養育は、中長期的に見て、子の福祉を害するおそれがあるものといわざるをえない。

したがって、子の福祉という観点からすれば、未成年者両名を申立人の監護のもとに置く緊急の必要があるというべきである。

よって、本件申立は理由があるから、これを認容することとし、家事審判規則第52条の2を類推適用し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 遠藤真澄)

(別紙) 申立の実情

はじめに

申立人は相手方に対して、離婚を求めて御庁に平成7年10月25日に離婚調停の申立をした(担当係・御庁家事部第×部×係、事件番号・御庁平成7年(家イ)第××××号、第1回調停期日・平成7年12月4日)。

民法766条1項、家事審判法9条1項乙類4号を類推適用して、幼児である事件本人両名の引渡を求めて本申立をする。

第一申立人の経歴

一 申立人は、昭和38年2月21日に、長野県長野市で生れた。

父親は○○(昭和11年1月14日生れ)、母親は○△(昭和11年6月6日生)である。

父親は大工をしている。

二 申立人の経歴

1 昭和56年3月 長野県立○○高校卒業

2 昭和56年3月から昭和59年3月まで

○○病院付属高等看護学校(東京の五反田)に通学して、正看護婦の資格を取得

3 勤務病院

(一) 昭和59年4月から昭和61年12月まで

○○病院

(二) 昭和62年2月から昭和63年4月まで

○○○病院

(三) 昭和63年5月から平成2年4月まで

○△病院(東京都足立区)

(四) 以後は、相手方と婚姻して専業主婦。

第二相手方の経歴

一 相手方は昭和43年7月3日に、東京都葛飾区で生れた。

父親は川井春平、母親は菊代である。

二 相手方の経歴

1 相手方は、高校を卒業後、父親が経営する「川井解体」で父親と一緒に解体業の仕事に従事している。

2 なお、「川井解体」は平成2年9月11日に、有限会社○○工業として、有限会社となった。

第三婚姻のいきさつ

一 申立人と相手方は平成2年2月に、東京部足立区の北千住の居酒屋で知りあって交際をして、平成2年5月14日に婚姻届けを提出した。

二 申立人と相手方は、相手方の住所に記載の「○○ハイツ」に居住した。

このアパートの間取りは6畳間と4.5畳間と台所、風呂、トイレである。

三 子ども(事件本人)

申立人と相手方間には

長男春彦(平成2年11月18日生)、○○幼稚園(東京都足立区○○)

次男知彦(平成6年2月5日生)がいる。

四 申立人は、婚姻後は専業主婦となったが、会社の電話番、帳簿付けの手伝いなどは行なった。

第四相手方の家族の状況

一 相手方の両親は、現在別居中である。

二 相手方の父親の川井春平さんは、埼玉県草加市○○町の○○マンションに居住している。

父親の川井春平は、現在、タイ人の女性(27才位、メグミと呼ばれている)と同棲している。

三 相手方の母親の川井菊代は、東京都足立区○○×丁目××番××-×××号のマンションに、相手方の妹の由香と居住している。

相手方の母親の川井菊代さんは「酒乱」と言われている。

第五申立人が離婚を決意した経緯

一 相手方の暴力

1 申立人が買物等のために外出すると、相手方は「てめえ、どこへ行ったんだ」と声を荒げ、「浮気をしているんだろう」などと疑い、責めたてた。

2 相手方は、新婚時代から申立人に対して暴力をふるった。気に入らないことや意見が合わないと殴る、蹴るの暴力をふるった。

例えば、申立人が相手方に「子どもを見てほしい」と述べると、相手方は「何で自分が見なくてはならないのだ」と怒って、腰や尻部を蹴った。

このような平手の殴打、腰部を蹴る、髪をつかむ、物を投げつける等の暴力は30回以上になった。

また、相手方は子どもの前でも平気で暴力をふるい、申立人が「子どもの前では止めてほしい」と土下座して頼んでも、暴力を続けた。

二 非常識な行為の強要

1 会社名義のトラックが駐車違反で3~4回程黄色の輪をはめられたが、その都度、相手方と父親は、その輪を切って外した。

申立人が、その行為を注意しても「構わないだろう」などと述べ、警察からの問い合わせの電話には「職人が乗っていたから誰だか分からない」と答えるように強要された。

2 相手方の父親が飲酒運転で衝突事故を起こしても、事故の相手からの問い合わせに対して、申立人に対して「そんな人はいません」との答えを強要した。

三 申立人が離婚を決意した経緯

1 申立人は相手方の暴力に対しては、子どものためと耐え忍んできた。

2 相手方は、「やくざ」の世話で平成7年8月から焼鳥の露天商を始めた。

しかし、申立人は相手方がやくざとの関わりを持つことも、免許も取らずに飲食業を始めることにも反対であった。

3 申立人が、露天商は反対であることを述べると、相手方は平成7年9月21日午後7時頃、自宅の6畳間で申立人の顔面を殴った。子どもが泣き出したので、申立人が下の子を抱いて、隣の4.5畳間にいくと、相手方は追いかけてきて、さらに申立人を蹴った。

第六別居の経過

一 以上の経過で、申立人は平成7年9月25日に、子ども二人を連れて、長野の実家(申立人の現在所)に帰った。

二 平成7年9月25日以降の生活状況

1 申立人は実家に戻ったその日から3日間、母親に伴い志賀の○○温泉に泊まった。

2 その後、申立人は、長野家庭裁判所、長野市役所等に相談に行った。

3 また、生活のために、勤務する病院をさがし、10月6日に採用連絡を受け11月1日から出勤の予定となっていた。

そのために、住民票を移した。

第七相手方による子どもの連れ去り(平成7年10月13日の経過)

一 平成7年10月13日の経過

1 相手方は、平成7年10月13日の午前9時頃、申立人の実家(申立人の現住所)を訪ねて来た。

相手方は、「山形の祖母が危篤で、父親は山形に行った。メグミも母親が具合が悪いので今月20日にタイに帰る。」等と話した。(しかし、この相手方の話は嘘であった。)。

2 申立人の父親も帰宅して、正午頃まで話し合った。

3 正午頃に、相手方は「今後はいつ会えるか分からないので、おもちゃを買ってあげたい」などと話し、長男の手を引き、次男を抱っこして「買ったら戻るから」と言残して、外出した。

しかし相手方は、そのまま戻らなかった。

4 申立人はおもちゃ屋や駅のホームを探したが見付からなかった。

5 そこで、申立人は午後2時19分発の電車に乗り東京に向かった。

午後5時40分頃に東京都足立区の東武鉄道○○駅に着き、タクシーで申立人のアパートに向かった。

申立人がアパートに着くと、相手方、相手方の父親、その愛人の3人がちょうど到着したばかりの様子で、自動車2台のドアが開いて荷物を積めていた。長男が「ママー」と言ったので、申立人が近付くと、相手方の父親は「てめえは来るんじゃない。子どもは渡せない。あきらめろ」と怒鳴った。

相手方も「てめえは来るな」と怒鳴って、申立人を突き飛ばし、そのはずみで、申立人は階段にぶつかった。

車中で子どもふたりが「ママー、ママー」と泣きじゃくっていたので、申立人は思わず車のボンネットに乗り、フロントガラスに手を付いて「お父さんお願いします。こんなことをしないで下さい。」と頼んだ。

しかし、相手方の父親はクラクションを20回ほど鳴らし、「降りろ、降りろ」と叫び、「春太、知美を降ろせ」と叫んだ。相手方は申立人を引きずり降ろし、2台の自動車は出発した。

6 申立人は放心状態でアパートに一人でいると、相手方の父親が30分程して来て、「子どもはおまえには渡せない」などとまくし立てた。

申立人が事情を話すと、互いに静かな口調の話し合いになり、相手方の父親は「そうだったのか。そんなにびどかったのか」などと話した。

そして、相手方の父親は、相手方を連れてきました。

7 その後、夜になって、申立人の両親が到着して、話し合いを持った。

申立人の父親は申立人に「もう離婚することは決まったんだから、子どものことは後にしてとりあえず一度帰ろう。」と促した。

申立人は、現状では子どもを連れて帰ることは困難だと考えて、とりあえず長野に戻った。

〔参考2〕(東京家 平7(家ロ)178号 審判前の保全処分(間接強制)申立事件 平8.1.30決定)

主文

1 債務者は、当庁平成7年(家ロ)第5081号、5082号審判前の保全処分(子の引渡申立事件 本案 平成7年(家)第15473号、第15474号)に基づいて、この決定の送達を受けた日から3日以内に、債権者に対し、未成年者両名の引渡しをせよ。

2 もし債務者が上記期間内に未成年者両名の引渡しをしないときは、債務者は債権者に対し、上記期間満了の翌日から履行にいたるまで、1日当たり金3万円の支払いをせよ。

理由

当庁平成7年(家ロ)第5081号、5082号審判前の保全処分事件は、平成7年12月22日に債務者に送達されたが、債務者に今日までの間、いかなる説得にも応ぜず、未成年者両名を債権者に引き渡そうとしない。

しかし、未成年者両名の福祉の観点からすると、一刻も早く債権者の元での安定した養育環境を実現させる必要がある。

そこで、本件強制執行の目的を達成するため、諸般の事情を考慮し、債務者が未成年者両名の引渡しを履行しない場合には、履行あるまでの間、1日あたり金3万円の支払義務を負わせることとし、主文のとおり決定する。

(家事審判官 遠藤真澄)

編注

本審判確定後、申立人からの直接強制の申立てに基づき、執行官及び申立人代理人が相手方及び未成年者が居住する相手方の実父の住居に臨場して執行が試みられた。しかし、相手方の実父らが玄関のドアーに施錠したまま執行官等の立入りを拒否し、相手方が引渡しに応じなかったため、執行官は、申立人代理人の了承を得て執行不能とした。

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